高 野 紙 見 聞 録

昭和62年・63年 名匠 中坊佳世子さんが抄造する高野紙の記録
 高野紙の製法を弘法大師から教えられた、と里の人々は信じています。
  かつて高野山のお寺の経本などに用いられ、繁栄を誇ったのは、もう語り草‥ 
 ここに、またひとつ、美しい伝統が消え去ろうとしています。
  ひょっとすると、これが滅亡寸前の高野紙の最終リポートになるかもしれません。
 

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ネリ

 ネリに黄蜀葵(トロロアオイ)を最初に用いたのは、恐らく中国人であるといいます。これを利用して和紙を日本人が創りだしたのだろうと考えられています。ネリはノリと呼ばれる場合もありますが、ネリには楮の繊維を接着させるような働きはありません。紙が出来上がれば、ネリの成分はむしろ消えてしまいます。まるで黒子のような不思議な存在です。

トロロアオイトロロアオイの種 中坊さんは、納屋の屋根の下に種のついた黄蜀葵を陰干ししていました。ちょうどオクラのような実の中に黒い小さな種がつまっています。この種を夏に蒔けば、十一月末頃にトロロ芋ができます。それを引いて、槌で打って使います。

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槽

 繊維を砕いて綿のようになった楮を木製の槽へ入れて水を加えます。
 槽の大きさは、横三尺、竪二尺、深さ一尺です。「すき舟」とも呼ばれています。

寒中、手をぬくめながら紙をすく 紙すきは冷たい水で行われます。槽の右側に手をぬくめる湯槽のこしらえが別にあります。
 まるい煙突のようなところから炭を入れて湯槽を暖めます。中坊さんも冷え切った指先を湯槽につけながら紙をすいていました。

 足元に炭を入れ暖をとる 
槽に向かって立つ、その足元にも炭を入れる場所があります。寒すきを第一とする紙すき小屋の暖房設備はこれだけです。


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